95:最終章 ノーフィッシュ

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しばらく、力尽きたキングを持ったまま動かずにいた輝幸は
少し薄暗くなった空を見上げ、ふぅっと大きくため息をついた。

そして、もう一度キングに優しい眼差しを送り、静かに優しく
その口から、ガッチリと喰い込んだフックを外してやった。

力尽きたとはいえ、なおも圧倒的な存在感を放つその魚体。
闘ったもの同士しか分からない、意識が二人をとりまく。

30分以上にわたる格闘の記憶は、全くない。
パンパンに張った左腕と、血の滲んだ右手、白く乾いて
ひび割れた唇・・・・
そして、力尽きて輝幸の手にゆだねられたキング・・・
ただ、そんな光景だけが先程までの死闘の影を
感じさせる。

風はいつの間にかすっかり止み、湖面は傾く夕日を反射して
息をのむほどの美しさだ。
山々の稜線が緑に輝いて、美しい。

あぁ、ここは自然だ。
ただユラユラと浮かんでいる。
動力も、最新の機材も存在しない。

ただユラユラと浮かんでいる・・・。

ほんの短い時間だったが、輝幸は夢を見ているような
そんな感覚に包まれていた。
五感すべてがリラックスして、開放された感覚。

「おい・・・藤野・・・」


2008年9月26日(金)

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