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少しずつではあるが、巻く事ができるほどになってきていた。
下へ下へ潜るのは、奴にとっても苦しいはずである。

横に走ることが、少し弱ってきている証拠である。
引く力も、先程より数段弱くなっている。

あと少しだ!

その事は、隣の吉田にもわかったようだ。
「藤野・・・奴はだいぶ弱ってきてるな!
 かれこれ30分近くなるぜ。
 こりゃ、逆転優勝どころか日本一のスーパーバスに違いない。
 おい、藤野!聞いてるのか!
 チャンピオンバスだぞ!」

輝幸の頭の中は、空っぽだった・・・
ただ、神経だけが奴とつながっていた。
吉田のそんな言葉も、まるっきり耳に入らなかった。

歯を食いしばり、額に汗して、腕の筋肉をつっぱらして
必死に奴の引きに耐えていたが、その瞳はどこまでも澄みわたり
なにかトロンとして、夢を見ているようであった。

それは、まさに彼の少年時代の瞳であった。


2008年9月20日(土)

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